『 歳末 ! ― (1) ― 』
バサ バサ バサ 〜〜〜
ギルモア邸の玄関に 騒がしい音がひびく。
「 うお〜〜 なんだ これ 〜〜 」
ジェットの足元には 色とりどりな広告が散らばっている。
「 あら?? なにやってるのぉ 」
この家の < 女主人 > が顔をのぞかせた。
「 なに ッて。 朝刊をとってきたらよ〜〜〜 やけに分厚くてさ 」
「 だからってこんなに散らさないでいいでしょう ? も〜〜〜
ちゃんと拾って片しておいてね 」
彼女はそれだけ言うと さっさと引っ込んでしまった。
「 わ〜ったって。 」
のっぽの赤毛は 長身を屈め、玄関のタタキにちらばった紙類を拾い集める。
「 ったく なだってんだよ〜〜 本家の新聞よか分厚いんでね〜の ・・
お? やべ〜〜〜〜 この値段かよ〜〜 」
彼は 歳末・激安! の文字が並ぶ一枚の前に座り込んだ。
「 これ ほしかったんだ〜〜 え?? 本日限定? う〜〜っす 即 ゲットぉ 」
ぺらり、と一枚をGパンの尻ポケットにねじ込むと
「 ・・・ アソコからなら バレね〜よな〜〜 」
こっそり玄関を出ると門を抜け崖の窪地から ― そ〜ら〜を超えて♪ いってしまった。
「 ジェット? 朝刊は博士にお持ちして ・・・ あら? 」
再びフランソワーズが玄関に顔を出したとき、 誰の姿もなかった。
「 書斎にお届けに行ったのかしら。 あ やだ〜〜〜 散らしたままじゃない? 」
朝刊はいちお〜畳んで隅に置いてあるが 玄関のタタキには
広告が散乱したままなのだ。
「 な〜〜にやってるのかしら! 後で 玄関掃除 やってもらうわ 」
もう・・・ ぶつぶついいつつ、散らばった紙類を集める。
「 フラン〜〜〜 なに? どうか した? 」
ジョーが ひょい、と顔を出した。
「 ああ ジョー。 ねえ みてよ? 誰かさんってば玄関中に
新聞広告を散らばせて ― 消えてしまったの ! 」
「 へ? あ 〜 ソレ ぼくが集めておくからさ
博士に朝刊をもっていったら? 」
「 あ ! そうね〜〜 ごめんなさい ジョー じゃあ ここ・・・
おねがいできる? 」
「 おっけ〜〜 ついでに掃除しとくね 」
「 まあ ありがとう! あとでお花を買ってくるわね。
玄関にお花があると楽しいでしょ? 」
「 うん そうだね って言ってもさ、ぼく 花の種類って バラとユリと
あと・・・ あ! アサガオ くらいしかわかんないけど 」
「 え〜〜〜 そうなの?? じゃあ 今度から花の名前も解説するわ。 」
「 ありがとう! ・・・ えへ なんかいいな〜 」
「 ? なにが 」
「 え そのぅ〜〜 花の名前 知ってるとか いい気分 」
「 うふふ・・・ おかしなジョー ねえ。 あ 博士に新聞! 」
フランソワーズは 朝刊を手にぱたぱた駆けて行った。
ジョーは彼女の後ろ姿を にこにこ見送ると 散らばった広告に手を伸ばした。
「 わ〜〜 さすが師走だなあ 新聞広告の量 すご〜〜〜 ・・・
歳末大安売りって ホントなのかなあ ・・・ あ? 」
彼の手が止まった。
「 そうだよ! 年末なんだよ。 歳末だよ! 大掃除して正月の準備、しなくちゃ!
まずは 掃除だよな〜〜 ウチはともかくだだっぴろいから・・・
雑巾! 雑巾の余分とかあったっけ? 窓ガラスも磨かないと・・・
ガラス用の洗剤、いるよな〜〜 掃除機は ・・・ ダ〇ソンので大丈夫かな?
そうだ! 床の拭き掃除とかもしなくちゃ!
ホーム・センターの広告、あったよな? え〜と 」
ガサゴソ ・・ 彼は集めたばかりの広告をひっくり返し始めた。
「 え〜〜と ・・・・ あ あった! これこれ ・・・ 駅の向こうに
大型店、あるんだよな〜〜 えっと ・・・うお! 安い!
これも これも ! こりゃ必須だな〜〜 」
ジョーはちゃちゃっとチェックすると その広告をポケットに突っ込んだ。
そして ―
ほーむ・せんたー に 年末用品、買い出しにイッテキマス
これも広告の裏にでっかく書くと玄関に置き スニーカーを履くと
「 うひゃ 寒 ・・・ よし チャリで飛ばすぜ〜〜〜 」
愛用のママチャリで 邸前の急坂を駆け下りていった。
「 ジョー ? 広告の紙は・・・ あら? 」
フランソワーズは 博士の書斎から玄関に回ったが ジョーの書き置きに目と止めた。
「 ・・・ なに これ? ・・・年末用品 ? 別にいいけど。
掃除用具も洗剤も たっぷりあるのに ・・・
広告は ああここね。 あら。 掃除、しとくって言ってたのに・・
もう ・・・ ぱぱっとやっちゃお。 」
彼女は 玄関用の箒を持ちだすとさっさと掃除を済ませた。
「 お〜〜 マドモアゼル、 朝から掃除かい 」
よく通る声が 玄関にひびく。
「 あら グレート。 おでかけ? まあ 大人も・・・あら それじゃ お店? 」
「 はいな、フランソワ―ズはん。 そろそろ わてらにとっては 真剣勝負 の
時期やかならな〜 」
「 真剣勝負? 大人のお店の・・・? 」
「 そや。 」
「 だって大人のお店は いつだって大評判で行列のできる店 でしょ? 」
「 ぎょ〜さんお客はん、来てくれはっておおきに、やで。
そやけど 年末はまた別や。 」
「 そうなの〜〜 なにか特別なメニュウをつくるの?
あ 北京ダック とか フカヒレまるごと〜 とか?? 」
「 うんにゃ。 お高いもんは使いまへんで。
どなたサンにも楽に買うてもろて そんで 美味しい! いうのん、作りまっせ 」
「 うわ〜〜〜〜 すごい〜〜〜 」
「 ふふふん ここが料理人の腕の見せ所やで〜〜
ほな グレートはん! 行きまっせ〜 」
「 へいへい ・・・ 」
「 グレートも料理、するの? 」
「 い〜や 吾輩は 荷物持ちさ。 店の若いモンが地元農家に
買い出しに行ってるから その手伝い。 」
「 へえ ・・・ 地元の? 」
「 そや! 今年のてーま は 三浦野菜 の お御馳走やで〜〜 」
「 まあ 美味しそうね 」
「 そやろ? みなはんに美味しいもん、食べていただきまっせ。
ほな グレートはん、せいだいきばってや〜〜〜 」
「 へいへい・・・ 」
「 ほっほ〜〜〜 新年のお節料理も お馴染みのお得意サンのために用意せな・・・
仕込みの量も多いんや。 ほな グレートはん、行きまっせ〜〜 」
「 やれやれ ・・・ そうだ ウチのお節の材料、買っておこうぜ 」
「 そやな 〜〜 フランソワーズはんは手作り好きやよって。 そやろ?
ワテが大量につくったるで〜〜〜 」
「 正月は 喰っちゃ寝 飲んじゃ寝〜〜の 極楽だあ〜〜〜 」
「 その前に! せいだい働いてや〜〜 」
「 へいへい 」
凸凹コンビは 連れ立って寒風の中、出かけていった。
「 いってらっしゃ〜〜〜い 美味しいご馳走、待ってまあ〜す 」
フランソワーズは 大きく手を振って見送った。
「 ふふふ〜〜〜 お節料理は 張々湖飯店に丸投げね(^^♪
そうだわ、 あの大きなお重にぎっちり詰めてもらいましょ
うふふ〜〜〜 も〜〜〜 い〜くつねると〜〜 ♪ ってね〜〜
あ〜〜 はやくお正月にな〜〜れ♪ 」
「 あれ? 大人たち 出かけたんだね? 」
「 あら ピュンマ 」
玄関のドアを閉めたとき、またリビングのドアが開いた。
「 へえ? 35分のバスにはまだちょっと早いと思うだけどな 」
「 ピュンマもおでかけ? 」
「 あ うん。 ちょっと買い物 ・・・ 」
「 ああ 故郷へのお年玉かしら 」
「 え ・・・ あ〜〜 そういうワケでもないんだけど さ。
この時期って いろいろ安売りしているだろ? 」
「 あ わかった! アキバ に行くのでしょう〜〜〜 いろいろガラクタ・・
あ いえ 部品とか買ってくるつもりでしょ? 」
「 え? あ〜〜 そんなトコかな〜〜 おっと バスに遅れるな〜
あ 帰りは多分夕方になるから 」
「 了解。 気をつけていってらっしゃい〜 」
「 イッテキマス 」
ピュンマは マフラーを巻くと急ぎ足で出かけていった。
「 ・・・ ひえ〜〜 あぶね〜〜〜〜 最新型の掃除機、調達に行くんだけど
これ 皆の < 合意 > なんだよね〜〜
庭掃除用 も 僕がちょいとひねってみるつもりさ。
年末大掃除 とか 年始の準備 とか フランソワーズは拘るからなあ 」
ピュンマは 襟を立てると急坂を駆け下りていった。
「 ふうん ・・・ みんなお出かけね〜〜 お昼は博士とジェロニモ だけかな。
アルベルトは朝イチで出かけたし。それなら簡単にささ・・っと
サンドイッチでも作ろうかしら 」
冷蔵庫の中には 〜〜 と 彼女はかなりご機嫌ちゃんでキッチンに向かった。
「 野菜室には えっと ・・・ あら ジェロニモ Jr? 」
キッチンでは 巨躯の仲間がコーヒーを飲んでいた。
「 コーヒーなら美味しい豆があるの、入れ直しましょうか? 」
「 すまん。 これから出かける。 俺 これでいい 」
「 あらあ〜 ジェロニモもおでかけ? 」
「 うう 商店街 と ヨコハマまで。 園芸店、いってくる。 年末の準備だ。 」
「 まあ 珍しわね、 気を付けていってらっしゃい 」
「 うむ。 博士は? 」
「 え? 書斎にいらっしゃるはずよ 」
「 そうか。 ― 行ってくる 」
彼は立ち上がると 飲み終えたカップを丁寧に洗った。
「 行ってらっしゃい。 あ そうだわ、 今度 春に向かって植える球根とか
タネのこと、教えてね。 」
「 むう。 球根は 今 植えるのは秋咲きだ 」
「 あ そうねえ それじゃ タネとか苗。 教えてください 」
「 おう。 時間だ、行ってくる
」
「 いってらっしゃい。 」
寡黙な仲間は 大きくうなずて玄関を出た。
「 あ〜〜〜 皆おでかけねえ ・・・ ふぁ〜〜〜〜
なんか眠くなってきちゃった・・ そうだわ! とびきり美味しいカフェ・オ・レ
淹れようっと 」
彼女はお気に入りのカップを取りだした。
「 ・・・ ・・・? 」
ジェロニモ Jr. が 門の外で 辺りを見回していると
「 ここだよ 」
松の向こうから銀髪の仲間の応えがかえってきた。
「 フランは? 」
「 機嫌 よかったぞ 」
「 そうか! それじゃ 行くか。 まずは地元の園芸店だな。 」
「 むう。 ヨコハマより 揃うかもしれない 」
「 だ な。 ワラとか・・・ 都会じゃめったに見ないしなあ 」
「 ここ ・・・ 辺鄙だが 伝統、のこっている 」
「 ああ。 あと ・・・マツ とか 竹 とか 必要なんだろ 」
「 むう。 検索した。 」
ジェロニモ は ポケットからメモを取りだした。
「 ふむ ・・・ わかった。 あ? これはなんだ??
うす きね もち米 ?? 」
「 ・・・ むう ・・・ 餅つき、 しよう 」
「 もちつき ? なんだ それ
」
「 この国に正月に 必須、だと。 フラン 喜ぶ。 詳しくはジョーに
きけばいい。 」
「 う〜ん?? アイツにわかるか??? イワンに聞いた方がマシかもな 」
「 ふふ・・・ ともかく うす きね もち米 が必要だそうだ。 」
「 米 ・・・ってんだから米屋に聞くか 」
「 むう。 商店街の米屋、 古い店 ・・ きっと知っている 」
「 だな。 我ら ガイジンさん に丁寧に教えてくれるさ 」
「 むう ・・・ 」
「 博士は 煙草屋の隠居サンと懇意だからな〜〜 博士、 誘うか? 」
「 むう。 今 書斎にいる 」
「 お そりゃ好都合だな。 窓から失礼して 」
「 ・・・・ 」
巨躯の仲間は穏やかに破顔している。
「 ま これくらいいいだろ。 こいよ 」
「 うむ。 」
二人は邸の横手に周り 博士の書斎の窓を叩いた。
コンコン コン・・・
「 ・・・ あ〜 また忘れものか? 」
しばらくすると 博士のぼさぼさ頭が窓から現れた。
「 は?? あ〜〜 博士 〜 失礼します 」
「 ?? え・・・ アルベルト に ジェロニモ??
・・・ へえ〜〜〜 ワシはまた ジェットかジョーが財布でも忘れて戻ってきた
のかと ・・・ 」
「 ! え アイツら そんなことやってるんですか! 」
「 あ〜 ジョーは一度だけじゃが ジェットのヤツは数回・・・
下のバス停まで行ってから 財布わすれた〜〜! って戻ってきてなあ・・・
ここまで戻ったら自分の部屋にゆけ、と言ったのじゃが バスに遅れる〜
と騒いでなあ バス代を貸してやったよ 」
「 も〜〜〜 アイツら〜〜 よっく怒っておきます! 」
「 まあ まあ ・・・ 若いモンは忙しいのじゃろ 」
「 いや! 不注意なだけですよっ もう〜〜 」
「 ときになにか用かね? 君達もバス代が必要なのか 」
「 ち 違いますよ! アイツらと一緒にしないでくださいよ
あ その〜ですねえ もちつき しようじゃないかと ジェロニモが 」
「 もちつき??? 」
「 むう。 博士、この国、年の暮れにやる、と聞いた。 」
「 ・・・ ああ〜〜 あの餅つきか! お〜〜 いいなあ〜 」
「 その 餅つき に必要な道具は どこかで売っているのですかね 」
「 米屋 か? 下の商店街 でそろうか?
それから かどまつ の準備、したい。 植木屋 にもゆきたい 」
「 さ・・・あ? ああ それじゃ あの煙草屋のご隠居に相談してみようか
門松の件は いいぞ、ワシが植木屋のダンナに頼んでおく 」
「 わお。 それをお願いしたくて ・・・ 門松も いいですか? 」
「 おお いいぞ。 うん 楽しそうだなあ〜〜
ちょいと待っていてくれ。 支度して外にでるから 」
「 ありがとうございます あ 博士 フランソワーズにはどうぞ内密に・・・ 」
「 へ? 」
「 ナイショで準備して びっくりさせてやろうかな と思って・・・
なにせ日頃いろいろ・・・ 世話かけてますから 」
「 おお〜〜 いい心がけじゃ。 ふふふ ・・・こっそり外に回るぞ 」
「 気をつけてくださいよ
」
「 まかせておけ 」
数分後 でこぼこの三人組はこそこそ〜〜 門から出ていった。
「 ま〜〜ったく。 な〜〜にやってるんですかね!
ま ロクなことは企んじゃいないでしょ。 自分の部屋の掃除にでも
精をだしてほしいわ まったく 」
この邸の < 女主人 > は ちゃ〜〜〜んとテラスの窓から見ていた。
「 餅つき? へえ あの岬の御宅で? 」
米屋のダンナは ちょっとびっくりした顔をした。
「 そ〜なんだよ。 ムカシはオタクの店でも毎年やってただろ? 」
煙草屋のご隠居がとりなしてくれる。
「 あ〜〜 俺がガキの頃だったけど ・・・ もう最近はねえ 」
「 先代さんのころからの臼や杵は 始末しちまったのかい 」
「 いや ・・・ 捨てた記憶はないからな〜〜 倉庫の奥に眠ってる はず・・・ 」
「 そんじゃ ソレ・・・ 引っぱり出してくれんかね?
こちらのダンナの元にいる外人さん達が 餅つき したいんだと 」
「 へ? あ〜〜 岬のご隠居さん〜 あ あの美人さんの若奥さん、
元気ですかい 」
「 いやあ 〜〜 すいませんのう〜 コイツらがえらく 餅つき に興味を
持ちましてなあ〜〜 あ チカラ持ち揃いですから その点は安心して
くださいよ。 」
博士はにこにこ・・・ < 杵を使えるのか? > の問いにまずはにこやかに答えた。
「 そりゃ頼もしいですな〜〜 だけどね〜 ウチの臼と杵ですけど
もう何年も使ってないんでね ちょいと心配なんですよ〜 」
「 あ ・・・ 破損しないよう、極力注意して扱いますから 」
「 いえいえ そういうコトじゃあないです。
せっかくお持ちしても ちゃんと餅つきができなかったら申し訳ないですし〜 」
「 米屋さん、多分大丈夫だと思うよ。 ちゃんと倉庫の中に仕舞ってあるんだろ? 」
「 ええ。 死んだウチの親父が仕舞ったからね〜 そりゃきっちりやったはず 」
「 なら 大丈夫。 先代さんは律儀な御仁だったからね〜
アンタ、先代さんにそっくりさね。 だから臼も杵もちゃんとしてるさ 」
「 それならいいんですがね〜〜 」
「 あ〜〜 宜しければウチの連中でお手伝いしますよ?
どうぞ ご指導ください。 」
博士が咳払いをすると うんうん・・と頷きつつジェロニモ Jr.が進み出た。
「 俺、伝統文化、大切にしたいです。 チカラ持ち、運ぶの任せて。 」
「 俺がしっかり監督します。 責任をもってきちんと使用しお返ししますよ 」
アルベルトが明解でしっかりした日本語で述べた。
「 おうおう 立派なお弟子さん達だね ギルモアさん。 」
「 あ あは いや〜〜 」
懇意にしている煙草屋のご隠居に褒められ、博士はとても嬉しそうだ。
「 ― わかりました。 お貸ししましょう。 」
「 おう ありがとうございます。 そのう〜〜〜 ナンですが・・・
せっかくですから 地域のみなさんもいらっしゃいませんか 」
「 え? 」
「 ウチで ・・・まあ 坂の上でちょいと不便ですが ・・・
皆でわいわい盛り上がって餅つき・・・ってのも あ〜 ほれ、
暮れの風物詩でいいかなと ・・・ 」
博士の突然の提案に アルベルトもジェロニモ Jr. も 口あんぐり、だ。
「 お〜〜〜 そりゃいいじゃないか〜 ギルモアさん、 あんた しっかり
ニホンジンになってきたのう 」
「 あはは そうかもしれんです。 ・・・ 次の対局は譲らんですぞ 」
「 望むところです。 」
ご隠居同士 違う話題で盛り上がり始めた。
「 あ〜〜 そんなら もし 時間あれば・・ ウチの倉庫、覗いてみますか? 」
米屋の主人が アルベルト達に声をかけた。
「 あ 是非・・・ 」
「 むう。 頼みます。 」
「 あと 餅つきに必要なもの、準備するモノも教えていただけますか 」
「 はいはい。 あ〜〜 それはウチのばあちゃんに聞いてきますよ 」
なんだか話はえらく大々的になってきてしまった・・・
実際 小一時間かけて < 餅つき大会 > の運営の詳細が決まった。
「 いやあ〜〜 楽しみじゃなあ〜〜 」
帰路、博士はご機嫌ちゃんである。
「 俺も この国の年末年始の風物には興味がありますよ。
それに ・・・ あのでっかいモノで餅ができるって 興味深々です。
あ〜〜 若いヤツらにも是非! 手伝わせましょう 」
「 そうじゃな ・・・ フランソワーズも喜ぶじゃろうよ 」
「 ガイジンにとっては興味のマトですからね 」
「 俺 ・・・ もう一軒、用事ある 」
普段は寡黙な巨人が 口をはさむ。
「 ? 買い物か ? 」
「 もうひとつ、必需品 ある 」
「 もうひとつ? 」
「 ああ。 かどまつ だ 」
「 ・・・ あ あ〜〜〜 そうだったな うん ・・・ 」
アルベルトは少しばかり きまり悪そうな顔をした。
「 今年は 俺がつくる。 これから材料、調達してくる 」
「 うむ うむ。 植木屋のダンナに頼むといい。
ワシからの依頼だ、と言えば喜んで教えてくれるぞ。」
「 むう ありがとうございます 」
「 ― 頼む。 」
素直にアタマをさげた仲間の肩を ジェロニモ Jr. は ぽん、 と叩くと
商店街の外れに向かっていった。
外れには広い敷地を構える植木屋があるのだ。
「 ・・・ 今年は 俺も作りますよ 」
「 頼む。 」
博士の温かい笑みに アルベルトはすこし気が楽になった。
― 半時間後。
ジェロニモ Jr. は 植木屋の裏庭で熱心に縄を綯っていた。
「 そうそう・・・ アンタ 器用だし手もデカイし ― 植木屋にぴったりだね〜 」
「 ・・・ 」
「 今時 こんなに上手に縄を扱えるモンはいないよ〜
お〜〜〜 いい出来だなあ〜 うん それで 次は 」
「 ・・・・・・ 」
大柄な異国のワカモノは 黙ってしかし嬉々として作業を続けている。
「 う〜ん 竹をこう〜〜 立ててだね ・・・ そうそう!
あ〜〜 岬のご隠居サンはいい弟子をお持ちだね〜〜 アンタさあ
植木屋、やる気はないかい? 才能、あるよ! 」
「 俺 まだまだ 知らないこと、おおすぎる 」
「 うっわ〜〜〜 なんて謙虚なんだ〜〜 次はこう〜〜 松の枝を 」
「 むう 」
「 そうそう! アンタ スジがいいねえ〜〜
なんか こう〜〜〜 木や草の気持ちが分かるっていうのかなあ 」
「 ・・・ 」
「 なあ ウチに弟子入りしないかい? 俺からご隠居サンに頼んでいいかなア 」
「 む ・・・ 」
ワカモノは ただ穏やかに微笑むのだった。
材料を調達に行き ― どういう成り行きか ジェロニモ Jr. は
門松造り の指南を受けることになっていた・・・
「 ・・・ どこまで行ったのか ・・・ ジェロニモ Jr.のことだから
心配の必要はないが 」
アルベルトは テラスで空を見上げてぶつぶつ言っている。
「 あら どうしたの?
」
洗濯モノを抱えて フランソワーズが通りかかった。
「 え? あ ・・・ いや あ〜 いろいろ年末の作業が 」
「 あら アルベルトも? 」
「 < も? > とは? 」
「 だ〜って。 ジョーも 大人とグレートも ピュンマも そうよ
ジェロニモ Jr. も < 年末の準備 > とか言って
出かけて行ったのよ? ・・・ 飛び出しいったヒトも多分同じだわ 」
「 あ そ そうなのか? 」
「 そうです。 ― ねえ なにを企んでいるの? 」
「 え いや 別になにも 」
「 − そう? 」
碧い瞳が じ〜〜〜〜っと見つめてくる。
・・・ う ・・・
アルベルトはじりじりと後ずさりし ついにはテラスの柵に追い詰められた。
「 う? ― わかった。 あのなあ 」
彼は腹を括り ぼそぼそと話し始めた。
「 え〜〜〜〜 もちつき ですってぇ??? 」
Last updated : 12,12,2017.
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*********** 途中ですが
ま〜〜 一応 原作設定 なんですが ・・・
< あのハナシ > を 引きずっているって気分?
歳末って ど〜してこんなに気忙しいのでしょ〜ね